第五話  庄川源流  (上) 

始めてこの庄川流域へと 足を踏み入れたのはいつだったのだろう 1970年代のある年の初夏

庄川源流への憧れを 行動へと移した 世間知らずで無鉄砲だった 若かりし頃の思い出を。

どこまでも蒼い庄川の流れ

御母衣湖周辺には 数え切れないほどの流れと

その源流が存在し 幾度訪れても その懐の深さは

その底を垣間見る事さえも出来ず その都度期待を

裏切られる事も無かった。

当時 御母衣湖での庄川本流バックウオーターは

牧戸のすぐそこまで来ていて 入渓も容易で その頃でも

わりと 釣師の姿をよく見かける所でもあった 渓魚も

濃く 時にはダム湖育ちの大物が竿を曲げる事も

珍しく無く 気の抜けない場所で 筆者も掛けた尺近い

岩魚の後を 対岸の岩陰より”スッ”と寄ってきた60〜

70cm程のサクラ鱒と思われる魚影を確認している。

まだ 目覚める事の無い 家々の軒先をすり抜け 期待と不安を胸に その後続くこととなる
庄川源流通いの 第一歩を記す  この流域の源流ではわりとアプローチに苦労の無い谷への挑戦とし
車の行ける所までと 地道の先へと進む 車を降り割とはっきりとした踏み後を辿り 流れへと立ち
谷水をひとくち含み顔を洗う ”さくら”の二間半グラス竿にミチイト0.6ハリス0.4に手作りの 水鳥羽毛の
目印をつけ 目前の淵 駆け上がりへ第一投目を振り込む。
次々と針に乗って来る 小型アマゴを放流
しながら遡行のピッチを上げる しばらく
進むと 谷幅一杯流れ落ちる滝へと出会う
右岸の割りと水量の有る 二段になる滝壷
へと近寄り 駆け上がり手前に有る岩へと
体を寄せ そっと振り込む。
 予想どうりの 五寸程のアマゴがエサを
咥えヒラ 々 と手元へと飛び込む
下流の落ち込みへと放流 少々身を乗り
だし 発泡の中へと 強引に打ち込む
 流芯へと乗り わりと早めに手元へと
魚はこのエサを見ただろうか?
駆け上がりへと掛からんとする時 発泡へ
向け スッと引き込む大物特有の当たりに

1975年頃の庄川源流で
待ってましたとばかりの合わせへ 水深2mばかりの底で キラリ グネグネと若干の抵抗を見せ
浮いて来た 九寸程の天然アマゴに気を良くし その上部の壷にても同じようなサイズを手にする
手がかりと足場の良さそうな 高さ10m程の滝を直登 穏かな流れの中 無数の中型アマゴの
走りを確認 この先の遡行に期待が膨らむ。

          
      <酔いどれ渓師の一日> 第六話庄川源流(下)に つづく 
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